バスケットボール・マガジン 6月号

       


  
           


           荻原道治

     【福岡県・長丘中監督】

   おぎはら・みちはる/昭和32年5月18日生まれ、44歳。
   福岡県出身。県立城南高‐福岡教育大。
   中学校で出会ったバスケットボールでは、
   大学時代までシューターとして活躍し、
   インカレへ出場(大学3年次)するなどの好戦績を持つ。
   大学卒業後、数学科教員として、福岡市内の市立原中に赴任。
   着任当時は、学校事情によりバレーボール部の顧問となったが、
   その後、バスケットボール部の顧問に就任。
   以来、西陵中、高取中を経て、現在の長丘中まで、
   バスケットボール一筋に指導を続け、
   高取中時代には、チームを激戦区・福岡県の3位に導いた。
   また長丘中では、就任2年目にして、
   昨夏の島根全中へ出場を果たした。



  中学生指導の現場から

    【特集】

  ―実戦の積み重ね、
  経験を基に本番に向けた戦い方を整理しよう―

   クォーター制を味方につける

  最初のワンプレーを大切にし
  短く区切られる時間の点を線にする

  試合への雰囲気作りにも配慮を

  シビアに現われる勢いの差と難しいタイムアウトの決断


最初にお断りしておきますが、正直に言いまして、私自信、まだまだ経験も浅く
、ルールへの対応策は、まだよく分かっていないというのが現状です。あくまでも、
それを前提としてお話させていただきたいと思いますが、中学生にとってのクォーター制、
これまで以上に、シビアに試合展開の勢いの差が現われるものだというのが、私の見方です。

高校生以上と比較すると、まだまだ技術的にも精神的にも、
あるいは肉体的にも未熟な中学生にとってのバスケットは、ある意味で非常に不安定です。
しかも、もちろんディフェンスは大切な要素とはいえ、一方で、得点できるチーム、
言い換えれば攻撃力があるチームが絶対的に有利で、1試合60点以上も取ればまず勝てます。
そういった状況から見ても攻撃力を磨き、そのラインまで得点をあげてしまうというのは、
勝つための一つの考え方です。逆に、だからこそ、ディフェンスで安定感を求める、
あるいは相手を揺さぶるということが効果的がという考え方もできるわけで、
場合によっては20〜30点程度が勝敗ラインになるというケースも少なくありません。

クォーター制に変わって、中学生の場合は7分クォーターと、
一般よりもさらに3分ほど短い時間構成となりました。記録などを見てみると、
あるクォーターでは一桁得点、もっといえば2点とか4点とかしか取れない場合もあれば、
逆に20点も30点も取れることもある。力の差の有無ではなく、
たとえ同じ相手と戦っていたとしても、そういうことは起こり得ます。
それこそが、試合の流れといいますか、中学生の場合、
勢いそのものではないだろうかと思うわけです。
それでなくても、中学生の試合は必ずしも実力通りの結果が出るとは限りません。
そこで、その勢いをいかにしてコントロールするか。選手たちに求めることというよりも、
私たち指導者側が配慮すべき部分が増えてきたというのが実感です。
特にタイムアウトの数を1回に制限された(第4クオーターを除く)ことは、
その勢い、流れを私たち指導者側からコントロールする上で、非常に難しい問題だと思います。
私自信はチーム運営を坂上(守)コーチと協同で行なっており、
ベンチの実務的なことは、基本的に坂上コーチに任せていますから、
私自信がタイムアウトを取ることはありません。
しかし、もし私が取るならばここで何が難しいのかよくよく考えると、
タイムアウトを取るということよりも、
取り損ねることが多いであろうということが容易に想像できるのです。
つまり、流れを的確に読むこと、
そしてその後のことも考え含めた決断のタイミングが難しいのだと思うわけです。
元来、私はタイムアウトを早めに取るタイプの指導者ではありません。
しかし、例えばある局面で、もう少し待ちたいと思って、タイムアウトを取らなかったとします。
ところが、プレーが流れても状況が好転しないために、
「やっぱり(タイムアウトを)取ろう」と思い直したとき、場合によっては、
最初の段階から数分単位で時間が経過していることも少なくなく、
そのクォーターの主導権、流れの行方は、既に決まってしまっているということも多々あります。
このようなときこそ、自分の経験不足、判断ミスを悔やんでしまう状況でしょうが、
そういうことを思えば、時間が短いが故に、従来よりも幾分、積極的に取っていいのかなと、
そう考えているところでもあります。


           

  

   長丘中のエースとして、全中出場も牽引車となった堤啓士朗選手。
   昨年のジュニア・オールスターでは優秀選手にも選ばれ、
   今春からその活躍の舞台を高校界へと移した
   (写真は2001全国
jrオールスターより)


   先手必勝は当然の考え方やはり1対1の強化が基本

もう一つ感じているのが、特に試合開始、
第1クォーターの入り方が大きなポイントになってくるということです。
以前ですと、出だしの5分程度をもたつき、多少ビハインドを背負ったとしても、
そこからの10分で、一つ大きな流れ、勢いの山を作り、形成を逆転する、
スロースターターというような形容詞を持つチームというのは確かにあったと思います。
しかし、現在は、5分ももたつこうものなら、そのクォーターは、残り2分しかありません。
形成を逆転させる暇なく、一つの区切りが終わってしまうのです。
そして同様に、第3クォーターの戦い方。
ここにもゲームプランの大きなウエイトが置かれるべきではないかと思います。
結局は、従来から言われていた試合開始、後半開始の数分間が大事だということなのでしょうが、
試合も徐々に後半に入り、残すラスト7分となる前の段階のこのクォーターをいかに戦っていくか。
リードしているにしろ、ビハインドにしろ、ここで流れをつかめるかどうかは、
ラスト・クォーターへ、ひいては試合の結果へ大きな影響があると思われます。
負けた試合というのは、ここでやられているケースが多いという

印象さえあるほどです。一旦勢いを奪われ、流れを持っていかれると、
そのクォーターでほとんど点が取れないことも多々あります。
24秒ルールが同時に導入され、攻撃回数は多くなったとは言え、
それを確実にモノにするだけの正確な技術もなく、またクォーターにしても、
試合全体にしても、時間が短くなったということで、
その後挽回するチャンスがないとなれば、目指すは先手必勝。
最初の入り方を重要視しなければならないのは、当然と言えば当然なのかもしれません。
実際に私たちが先の福岡市大会で経験したことですが、
第1クォーター序盤につまずき、終わってみると、
こちらの得点はフリースローのみの2点という試合がありました。
この段階で早くも十数点のビハインドです。ところが第2クォーター盛り返し、
今度はほぼそれと逆の得点で追いついたのです。最終的には負けてしまったのですが、
中学生の試合では、このような劇的なことが平気で起こり得ます。
もしこれが以前の15分ハーフ制であれば、第1クォーターの流れをそのまま挽回できずに、
試合はそこで決していたのかもしれません。あくまでも結果論かもしれませんが、
この試合は、クォーター制の特徴、つまり、流れが途切れる、
そしてそこで劇的に勢いが移り変わる可能性があるということを、まさに実感した試合でした。
そこで、何をどう頑張れば、試合を優位に進められるのか。
私自信は、24秒ルールになったこととも関連し、
よりディフェンスの部分で試合を作っていくことが必要になると、そんな印象を持っています。
たとえ力的に多少劣っていた場合でも、ディフェンスである程度の時間粘れれば、
時間が区切られるからこそ、彼らの不安定さ、力の劣る部分を打ち消すことも可能になる。

リードしている状況ならそのリードを確固たるものとし、逆に負けているとき、
そこから挽回のチャンスが生まれるのではないか、そう感じるわけです。
その上で、1対1をもう1度見直していくこと。これがポイントだと思います。
クォーター制になって確実に試合全体の流れが作りにくくなったように、
24秒ルールなどで途切れることが多くなったプレー個々の内容としても、
毎回のオフェンス、あるいはディフェンスの流れが作りにくくなりました。
そんなときに、オフェンスの強力な1対1の力でレイアップに持ち込めれば、
得点の確立も上がるでしょう。ディフェンスで頑張れば、相手のミスを誘い、
速攻につながって勢いに乗れるかもしれません。そこで、元である1対1が、
あらゆる面での流れ作りには絶対的に欠かせないと思うのです。
また、明らかに力が上のチーム、逆に力が劣るチームにとっても、
目標を設定しやすいという一面があるかもしれません。
そしてそれこそが、それぞれのチームの良さを持続させ、
時に圧勝を、また時に接戦を作り出しているのだと思います。
私自身は、どちらかと言えば、ディフェンスで頑張るチームを作りたいと思っていますから、
それを選手たちに強調して指導し、指示を出すわけですが、
状況によっては、選手たちは、ともすればディフェンスで手を抜き、
いい加減なオフェンスをすることにもつながってしまいます。
あるいは最初から締めてしまって、闘志を燃やさない・・・。
いくら指導者が声を荒げてみたところで、気持ちに勝敗への緊張感がなければ、
そういう傾向になってしまうもの、ある意味仕方のないことなのかもしれません。
しかし、それでは成長はありません。そこで、クォーターごとの目標を設定するのです。
例えば、相手を何点以内に抑える。
また例えば、リバウンドからの速攻を何本出す、何点取る、
オールコートのプレスを成功させるといったことになるでしょうが、
それらは直接的であれ、間接的であれ、
結局はチーム共通の目標であるディフェンスを頑張るということにつながります。
このようにその意識も持っていき方、
使い方によっては常に自分達の見直す手段にもなり得るのでしょう。


          

    荻原監督就任以前のものも含めて、
    校長室に飾られている数々の優勝旗。
  それは平成5年の全中優勝をはじめ、数々の栄光を物語っている


     スクリメージで時間感覚と流れの作り方を養う

話しは変わりますが、では、実際に私たちのチームでは、
どのような練習をしているかというお話しを少しさせていただきたいと思います。
それについては、原則として今までと変わったところはありません。
恐らくみなさんのチームと何ら変わらないはずです。
求めるものは1対1をしっかりとプレーすることですし、
一つひとつのプレーを確実に積み上げることというのは、ルールの変更云々に関わらず、
私たちの求めるバスケットのスタイルです。
ただ特筆すべき点があるとすれば、
私たちは、以前からスクリメージを7分で行なっていたということでしょうか。
10分ゲームというのはよく聞きますが、そうではなく7分ゲーム。
ただ、これはクォーター制に対応するために導入したというわけではなく、
私が赴任する以前からチームに取り入れられていたものでしたが、それがここにきて奏効しました。
その最も大きな理由は、選手たちが、7分という時間感覚を既に身につけていたからに他なりません。
どういうペースなのか。体力的にはどうなのか。
もっと言えば、どこが頑張りどころなのか。
それらを、漠然としたイメージではあるけれども、
選手たちが既に知っていたのですから、クォーター制には入りやすかったという記憶があります。
逆に私自信のほうが、その時間感覚がなかったかもしれません。
私は一応選手経験者でもありますし、指導経験も多少はあります。
しかし、それらはすべて前後半制、しかも15分、あるいは20分ハーフという範疇での経験でしかなく、
クォーター制はまったくの初体験。7分というのがどういうものなのかすら、分からないのです。
それを、選手たちの経験が助けてくれたという面はあるのかもしれません。
そして、もう一つ取り組んでいるのが3分ゲーム。これは、試合や各クォーターの入りの部分、
あるいは締めの部分を体感するのに、ちょうどいい時間と思われます。
タイムアウトで区切られる時間としても、ちょうどいいところかもしれません。
リードしている状況、あるいはリードされている状況などをこちらが設定したりもしながら、
試合の流れの作り方を覚えていくということに関して、有益な練習方法だと思います。
つまりこれは試合を全体の28分と捉えるかという問題にもなると思います。
ただし、現状として、あらゆるパターンで試合が止まることによって、
試合全体としての流れは作りにくいわけですから、
どうしても、一つひとつの事象、局面を整理しながら、全体を作っていく必要性があるでしょう。
言わば、時間の経過とともにバラバラに存在する局面という点を、
試合という一つの流れつまり線にする作業とでもいうのでしょうか。
そのための努力だと考えていますし、そういう見方をしていくことが大事なことだと思うのです。
もちろん最初から最後まで、一方的な試合ができればそれでいいのかもしれません。
しかし、相手がある以上そうはいきませんしたとえどんな相手であっても
必ずや相手に流れを奪われる局面というものは出てきてしまうはずです。
その点で、プレーの切替、意識の切替といった切替の早さというものにも注目し、
今後見直し、さらに求めていこうと考えているところでもあります。
それによって、試合という線を構成する、
各点、各局面ごとの勝負に勝っていけるようになるのではないかと。
その各点は、部分的に捉えれば、きっと自分たちと相手とを行き来する、
ジグザグなものとなっているのでしょうが、それをつなげた線としたときに、自分たちの側にある。
そういった戦い方を目指していきたいと思います。


        

   チームの関係者らとともに他チームの試合を
   観戦する荻原監督(写真中央)。
   昨夏の全中出場に甘んじることなく、選手たちとともに、
   さらなる努力を続ける(写真は島根全中より)


   増えた指示を出す機会 的確、簡潔な表示で徹底させよう

このルールでは、時間が細かく区切られ、ハーフタイムやインターバル、
そしてタイムアウト、プレーとプレーの間など、指導者が選手にアドバイスする機会が増えました。
ベンチがゲームをコントロールする材料機会が増えたということでは喜ばしいことなのかもしれませんが、
ここでも、また考えなければならない難しい問題があると思います。
特に、タイムアウトやインターバルについてです。
私が自分自信の選手時代を振り返っても実感するところですが、
例えばタイムアウトで多くの指示を出されても、正直言って、選手というものは、
その話しのほとんどを聞いていないものです。
興奮状態や疲労感などがそうさせるのでしょうし、また、水分補給もしたいし、休養もほしい。
選手の意識は必ずしも指導者の指示には向いていないのが現実です。
しかし、指導者としては、せっかく得た機会は、効果的に使いたい・・・。
例えば、中学生のクォーター間のインターバルは、僅か1分。
30秒前には笛がなり、コートへと戻るよう指示がでますから、実質、20〜30秒程度。
ここで色々と指示を出しても、中途半端になるだけで、徹底されない分
,効果は期待できないことでしょう。
だからこそ、選手に強烈なインパクトを残す、1つか、せいぜい2つのことを、
端的に伝えるようにするというのも、考えておかなければならない点だと思います。
端的に伝えると、「守れ」、「攻めろ」とただ怒鳴ったりすることとは違うはずです。
例えばオフェンスについて一点、デイフェンスについても一点の計2つ。
それが精一杯だと思います。確かに、指導者として言いたいことは山のように出てくることでしょう。
しかし、そこはぐっと我慢して、今本当に大切なことだけを簡単な言葉で、的確に伝える。
私はそれを実践するよう、心がけています。
では、ここで気をつけることは何かと考えれば、指示を与えることと同等に、
選手が次のクォーター、次の瞬間へと入り込んでいける、
つまり集中していける、雰囲気作り、
あるいは気分よくプレーできるような雰囲気作りではないかと思うわけです。
確かに、それが機嫌を取るというような側面だけとなってしまっては
望ましい状況ではないでしょうし、それだけを追求してもまた本質が変わってきてしまうのでしょうが、
中学生は、雰囲気次第でガラッと表情が変わるものです。
言葉は悪いかもしれませんが、まだまだ成熟しきれていない子供なのですから、
ある意味で全員が、“お調子者”的要素があると言っても過言ではないかもしれません。
時に激を飛ばし、また時に軽口を叩いて、選手たちをリラックスさせ、盛り上げる。
そういった配慮が、選手たちの集中力を真に高め、
戦いへの雰囲気作りにつながっていくのかもしれません。
必要な声、時には単なる盛り上げのための声を出すということも、
そういう意味では大切なことです。勝っていても、負けていても、元気よく声を出して戦う。
中学生ならではと言われるかもしれませんが、そういったことでもチームの雰囲気は盛り上りますし、
そうなれば挽回のチャンスは巡ってくるものです。
その他、メンバーチェンジや戦術などを含めて、
勝利を求めるために考えられることは多々あるとは思います。
しかし、いずれにしても、中学生のバスケットはまだまだ完成されたものではありません。
その中で、中学生らしく、また選手たちの将来なども考えながら、奇をてらうことなく、
着実に行なうべきことを行なって行くこと。
これが私たち指導者に求められる一番のことではないでしょうか。
勝負である以上、勝敗はついてきますが、そうやって努力を続け、
チャレンジしていくことが、
きっといつか現実としてクォーター制を味方につけていることにもなっていくのではないかと思います。



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